ユトレヒト大学内にある施設で、一階に食堂、二階にそれぞれ500人収容の2つの講堂が入っています。(以下、学食)
設計はレム・コールハース。
同じ斜めのスラブを持つ建築で、コールハースによるクンストハル美術館では、構造デザイナーのセシル・バルモンドが、斜めの床と、それに直交する斜めの柱の構造を提案しています。
この美術館の説明によると、斜めの柱を建てる目的が先にあって、斜めの柱による水平力(曲げモーメント)を中間の斜めの床に取らせてその床の下の水平力(曲げモーメント)をキャンセルさせたと、バルモンド氏の著書で読みました。
この学食の構造設計は同じ人かはわかりません。
この学食では、基本的に柱は床の傾きにかかわらず鉛直です。しかしながら、最もファサードに近い柱が、魅力的で気にさせてくれます。
コンクリート側が圧縮、鋼材側が引張と考えると、1本の柱に置き換えれば、クンストハルの床に垂直どころか反対側に傾いた柱と等価になってしまう?おや、と思うと傾斜の上側の柱は、コンクリートと鋼材が逆になったV字です。
単純に考えれば、スパンを飛ばしたV柱とV柱の間の天井のスラブの曲げを支えている+水平移動を固定している、となりますが、答えはどうなのでしょう。
このような設計・施工の面倒な組み合わせを躊躇なく入れるのは面白いです。部材それぞれは単純なのにひっかかりました。しかも、この組み合わせは建物の中でここだけ。
下の写真では手前のホール側は丸柱、奥のほうは角柱で、手前と奥で一度構造をリセットしたような感じです。
土木分野では、大規模構造の中で、連続性を生かした構造に美しさを感じることが多いです。ですが、この建築は、そんなことをやっている暇はない強烈な詰め込みぶりです。
他の建築も見てみたいと思いました。
→(追記)
さて、実物を見て1年以上経って、構造エンジニアとV字の柱の理由がわかりました。
構造エンジニアはオランダのエンジニアリング会社ABTのRobert Nijsseのグループです。
V字の柱がここだけにある理由は、2階の曲面壁側にある2つの講堂の4つの壁のうち、道路に面したこのV字の柱が設置されている壁だけがガラスで出来ていて、設計者コールハースの意向で、そこには柱が立てられなかったという制約から生み出された構造とのことです。
35mスパンの屋根のスラブを支えるために、”スパンを飛ばしたV柱とV柱の間の天井のスラブの曲げを支えている+水平移動を固定している”となったようです。
その他にも、講堂(20mスパン)や下の写真のような広い空間についても、スラブの厚さは全て400mm以下との条件があったそうです。
コールハースという建築家は、建築の成り立ちとなる前提条件を整理した、建築でいうプログラム、ダイヤグラム、時に物語と呼ばれるものを作るのが優れているそうですが、それはざっと見学しても何となく詰め込んでいるなあという程度しか分かりませんでした。
ただ、デザインに見える斜めのスラブは、スロープとして一階と二階の境界をなくし、ホールの傾斜となり、駐輪場を分割し、無駄がない構造体として機能していること。丸かったり(ホール)、広かったり(食堂)するスペースが、ひとつの特徴のある形の建物に上手く収まっているなあと感じました。
学食は学校の施設なので、カメラをぶら下げて入るのはほんの一瞬ためらいます。でもひとつ見せてもらったおかげで、いろいろなコールハースの記事の内容が頭に入ってくるようになったので行ってよかったです。
大学内はこのほかにも派手な建築物が多くあります。
NMR研究所、UNスタジオの設計
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