2017年4月9日日曜日

ローマMAXXI、ザハのデザインと構造設計

ローマMAXXI、国立21世紀美術館(2009)

設計はザハ・ハディッド。
ザハが1999年にコンペで優勝し、ザハの活躍を確定した建物です。
建物は、西側の軍の敷地を取り巻くように、L字型の細長い建物となっており、そのL字型を何本かの蛇行した1階分の大きさの箱を組合わせた造形になっています。
1本は、正面玄関の上に3階で突き出し、1本は入り口の上をはみ出して空中を蛇行しています。
ここを訪れたのは東京オリンピックの国立競技場の費用が予算を大幅に上回ることが問題視され、設計者のザハが諸悪の根源のようにメディアに扱われていた頃です。
技術的な問題だけではなく、ナショナリズムの高揚も乗じて、ザハ氏の設計をアンビルドの女王というくくりでぼこぼこに叩く論調もありました。
本当のところはどうなのだろうか、自分の目で見て感じたかったのが訪れた興味のひとつでした。
見学した感想は、美術館内に飾られた初期のことのデッサンや模型はイメージが突っ走っているところもありますが、出来上がった建築物は、近未来的な表層を纏いつつ、予想したよりも実施段階で”常識的な”進化を遂げた印象を持ちました。

中を歩くと、一つ一つのスロープなどの造形は穏やかで、独特な曲線が多用されながらも居心地の悪さがない良くできた建築物と感じました。うわっすげえなという、とがった感じの印象は、ゲーリーのグッケンハイムは抜けてますが、伊東豊雄のメディアコスモスや、菊竹清訓の九州国立博物館の方に足を踏み入れた時の方が強かったかもしれません。
もっとも、サイズが写真で感じるより小さいのと、MAXXIはRCだから落ち着きがあるからかもしれません。また、RCで難しい形態を再現するのは鉄骨造より実現は大変だと思います。
建物の中で気に入った空間。全体に細長いので、通路を歩きながら展示物を見る感じ。

RC製の空中歩廊はゲルバーヒンジのように切り欠きが組み合わされ、張り出し部に曲げが入らないように工夫されています。伸縮装置の構造は見えません。
無理なように見える形状も、形状をうまく解読した構造設計で成り立っているがゆえに、それぞれのパーツがきれいです。ただのザハ氏の形状に沿った張りぼてだったら、細かなところで歪みを感じたのではないでしょうか。
エントランスホールの宙に浮かんでいるように見える階段も、歩路のコンクリートの壁やチューブの側面にうまく支持されているようです。そこを単調に見せないような常にRの違う曲線や直線の組合せ。形態とエンジニアリングデザインが協働されているのでしょう。
構造デザインはAnthony Hunt Associates(ロンドン)とローマの会社が記されています。アンソニーハントはイギリスの斬新な構造に顔を出す構造家で、あの掃除機のダイソンも教わったことがあったらしいです。
一般図。模型のデザイン案と設計図の間でだいぶ手直しが行われています。

さて、MAXXI、建物の造形が特徴的な一方で、中身の展示物は完全に負けていて、私の行ったときに良かったのは、ザハの模型と、1階でコンクリートの大きな曲線を長めながらいただく高いオレンジジュースでした。

空間が細長く圧力があるので、この建物に合わせる展示設計は相当難しいのではないかと思います。
展示物。意味不明。
日本で批判の大きかったザハ氏の建築を自分の目で見た後で、国立競技場の顛末に関する感想は、実施過程で進化を遂げるエンジニアリングデザインがきちんとされたかどうかも分からないうちに消えてしまったザハ案国立競技場は、まずは周りの出来が悪かったのかな、と。専門家+報道含む社会全体。

少なくとも、ごつい曲げ部材で構成した北京オリンピックの鳥の巣に比べればアーチの方が構造として理にかなっているだろうと思います。実際、鋼材数量は鳥の巣4.2万トン、ザハ案2万トン。

当人が亡くなってしまったのでどうなったか分かりませんが、紆余曲折の後に選ばれた案が建築としての点数の低い物(そして、私のちっとも好みでない建築)だっただけに返す返す残念です。

アクセスはメトロA線フラミニオ駅から2番のトラムで4つめ駅。

ところで、イタリアは生ハムとチーズ屋、1EUROの立ち飲みエスプレッソ屋がほんと飽きずにたくさんあります。MAXXIとその近くのアーチ橋のあたりを歩くだけで生ハム屋をぶら下げる店が数件ありました。知り合いによると、サンドイッチには生ハム以外入れないのがイタリアでは基本だそうで、日本的なレタスや卵の入ったいろどりのいいサンドイッチは邪道だそうです。
ここにも独自の世界があることを知りました。
行ってみるもんです。

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