2018年5月20日日曜日

メナイ橋とブリタニア橋(その1)

メナイ海峡を渡る江戸時代に架けられた長大鉄橋 メナイ橋とブリタニア橋

ウェールズのメナイ橋と1.6km下流にあるブリタニア橋を見学しました。
メナイ橋

ブリタニア橋

メナイ橋は190年前、ブリタニア橋は160年前の建設ですが、その設計は革新的な思想と徹底的な試行の成果で、とがっています。この規模も形状も前例が全くない状態から、材料の特性を最大限に生かした構造を生み出す力は、コンピューターを駆使して設計された構造以上に、技術者の新しい形状に挑戦する情熱が感じられます。

ブリタニア橋は、1970年の火災で元のチューブ桁から、現在のアーチに構造変更されています。
メナイ橋は1840年、1940年の2回のリハビリテーションにより、建設時の材料は新しい鋼に変えられています。

両方とも、開通時の材料が残っているのは、アンカレイジと主塔部分のみです。

幸いなことに、メナイ橋(トーマス・テルフォード)とブリタニア橋(スチーブンソンJr.)まったく同じ設計者(達)と構造形式で、少し支間の短い橋がConwyに並んで架けられています。
Conwyの橋には、開業当時の材料が残っており、原型に近く開通当時の状態が想像できるので、こちらも並べて整理します。

Conwyの3本の橋梁。右からスチーブンソンのチューブ橋、テルフォードの吊橋、1958年の道路橋。北側に自動車道の沈埋トンネルがもう一本ある。
鉄道はブリタニア橋と同じホリーヘッドへ向かう路線上にあり、メナイ橋に鉄道で行く場合にはこの橋を通ります。

メナイ橋 (Menai suspension bridge, Lc=176m,1826)
コンウィ吊橋(Conwy suspension bridge, Lc=99.5m, 1826)

メナイ橋はトーマス・テルフォード(Thomas Telford)が設計。錬鉄を橋の材料として吊材のアイバーに使った最初の橋です。


主桁はもともと剛性が低い構造で、木製のデッキだったそうです。
デッキは1840年にW. A. Provisにより補強され、さらに、1893年にSir Benjamin Bakerによってトラスで補強された鉄製デッキに変えられました。1880年当時の写真では現在のような剛性の高いトラスは見えず、ラチストラスのような高欄が見えます。
http://www.fotolibra.com/gallery/686856/menai-suspension-bridge-c1880/

メナイ橋は、まだ、耐風理論など確立していない時期の建設なので、当初の木製デッキは、建設中からたわみ振動が生じ、10年後の1836年1月の嵐で5mにも達する振動が引き起こされました。1839年1月のハリケーンで50m以上の橋桁がひらひらと舞い、1/3以上のハンガーケーブルが引きちぎられたそうです。この後、トラスの高欄を持った橋桁に変更されました。(タコマ橋の軌跡-吊橋と風との闘い, Richard Scott, 勝地弘ほか翻訳)。

剛性不足で落橋したタコマナロウズ橋の100年前の出来事です。

側径間は石積のアーチで支えられており、ケーブルで桁を吊る必要はないが中央径間と同様にハンガーケーブルが配置されている。主ケーブルを安定させるためか?
テルフォードが描いた最初の絵では、側径間のアーチ型橋脚の桁橋部分に斜張橋のケーブルのようにアンカーさせる絵が描かれている。
ストランドロープのハンガーケーブル。1940年の補修で交換されたと思われる。中央部の短いハンガーは鋼製ロッド。
錬鉄チェーンによるケーブルの架設は、組み立てたケーブルを台船に乗せ吊り上げた。側径間は桁が逆にケーブルを支えている。
現在は片側2本のシンプルな鋼製アイバーとなっている。1940までは、中央分離帯部分に2本のケーブルを配置した4面x4本の錬鉄製チェーンだった。(下の図面参照)
もとのチェーンには長穴が開けられている場所があり、長さ調整が考えられていたようだが現在のリンクにはない。
初期のケーブル配置。現在と同じ位置にケーブルの水平移動を拘束するトラスがある。
マンチェスター大学のwebサイトから借用。
ぺらぺらの桁が見える。
バンガー側アンカレイジ。以前は、中央に見える3本の柱の間に、それぞれ2本のチェーンが定着されていた。今はふさがれている。
車両が横からケーブルの下をくぐって進入するため、ケーブル定着位置が高い。
西側定着部。ピンだけでなく、支圧板で定着されている。側径間の中間部に両ケーブル間を繋ぐバーが見える。標識用かと思ったが、水平に力が入れられているようで、ケーブルの水平移動を拘束する意図があるかもしれない。
メナイ橋の中央径間の補剛トラスは、主構造はリベット、水平拘束はボルト止め。

コンウィ吊橋(Conwy suspension bridge, Lc=99.5m, 1826)

メナイ吊橋と同年に、同じくテルフォードの設計で建設された吊橋です。こちらは建設当時のチェーンが残されています。
このConwyの吊橋もメナイ橋と同様にリハビリが行われ、メナイ橋の後に、木製デッキから鉄製の桁に交換されました。メインケーブルは1903年に鋼製のチェーンが1段上段に追加されていますが、下4段は建設当時の錬鉄製で、往時の姿をとどめており、メナイ橋の完成時の姿を想像することができます。
おとぎの国のような主塔デザイン。
最上段にストランドロープが追加されている。
アンカレイジはお城を一部解体して定着されている。

Conwyの吊橋は城壁に隣接する場所にあるため、デザインはエンジニアがデザインしたとは思えない遊園地の飾りのような主塔形状です。当時最高峰の技術の橋梁に、この”やってやった”的なデザイン。隣の1958年に架けられた現代の工夫のない橋を見ると、これが正解だったとしか思えません。

アンカレイジはお城の壁に定着されており、橋もビンテージ感があるので、橋はお城の一部、お城の建設時に吊橋を造ったと考える人もいるのではないでしょうか。実際はフェリーの代わりにコンウィ川をわたる自動車用の橋として建設されたものです。当初つけられていた歩道はチェーンより外側にあったものが撤去されたようです。
お城と町を取り囲む城壁は13世紀にはすでに現在の形が出来ており、吊橋が架かる19世紀頃には廃墟だったようです。
コンウィ城。1986年世界遺産登録。ケーブル定着部の上から。

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