2017年2月27日月曜日

パリ、シモーヌ・ド・ボーボワール橋

パリ、シモーヌ・ド・ボーボワール橋 (Passerelle Simone-de-Beauvoir, Lc=194m, 2006)

パリ12区、セーヌ川に架かる非常にライズの低いレンズトラス。設計は Feichtinger Architectes。
中央支間長194mは上の橋の支間で、下の橋の橋脚間隔は160mくらい、レンズ部の長さは106mです。
パリのセーヌ川には歴史的な橋梁を含め浅いライズのアーチが多く、この橋は類似の曲線を含むことで新しい橋でありながら景観を壊さない上品なデザインです。

最近、歩道橋にレンズトラスを採用するケースをときどき見かけます。1859年に架けられたロイヤルアルバート橋から、しばしのブランクを経て、構造部材の別に床版を用意しなければならなかったレンズトラスの弱点を、下に凸の引っ張り側の曲線部材を歩道とすることで補っています。
オランダのズウォーレで1つ見ました。日本では馬見原橋がこのタイプですね。

この橋はその中でも特別長いです。
構造はトラス部は高さ500-700 x 幅1000mmのボックスアーチと、厚さ100-150mmのリボン状の吊りプレートが主構造です。
アンカー部分では、吊材の100mmのプレートを曲げてあるように見えます。(だいぶでこぼこしており鋳物の可能性もあるかもしれません。)日本の道路橋示方書では冷間曲げの最小半径は15tと厳しめでこのような曲げは無理ですが、Z35という高い延性を持つ鋼材を使ったと鋼材のサプライヤーDILLINGER HÜTTE GTS(ドイツ)の説明にあります。
素直に力の流れを見せる構造は気持ちがいいです。

レンズ部は自定構造なので、ここだけ工場で製作しセーヌ川を台船にのせて輸送されています。レンズトラス部輸送中の写真は下記リンク。
http://www.archello.com/en/project/passerelle-simone-de-beauvoir
橋の西岸、写真の奥に見える4つのL字型のビルはフランス国立図書館です。ルーブル美術館大改造と同時期の1994年に完成。
TMD。薄い橋の運命で、案の定揺れます。
パリジャンによる振動試験の動画 https://youtu.be/69NA8E11IDM

場所はフランス最大の屋内競技場ベルシーアリーナの近く。メトロの最寄り駅はQuai de la Gare駅かBercy駅。Quai de la Gare駅で降りると、これも連続の石造アーチの美しいBercy橋が目の前です。
Bercy橋。1864年建造。1992年に地下鉄の外の3車線部分のコンクリート橋を拡幅。

新天門橋の架設設備

新天門橋の架設設備 (Lc=280m、2017年3月完成予定)

天草一号橋(天門橋)の隣に建設中の新天門橋を一号橋から見学しました。熊本天草幹線道路の一部として建設が進められています。
現在、熊本から天草の南端牛深までは2車線の国道が1本で、生活道路と遠距離移動を分離することは地域にとって価値のある事業と思います。
牛深は魅力的な町なので、移動時間が短縮されれば訪れる人も増えるのではないでしょうか。
新天門橋はソリッドリブアーチとして日本最大のアーチ支間を有する橋梁になります。中路の桁とアーチリブは剛結されているので、中央部分はローゼアーチです。

隣の天草一号橋は1966年開通時に支間300mの世界一の連続トラス橋でした。
見学でしびれたのは、曲線が続く道路を橋に近づいて進むと、山の手前から山越しに見えてくるケーブル架設用のタワー。このタワーが出来たころは、地域の人は、高いタワーを建ててるなあ、このタワーは新しい橋のどの部分になるのだろう?と思ったのではないでしょうか。
もうすぐ撤去されてしまうんですよね。分かっていてもすごい仮部材。施工技術の結晶です。
隣の一号橋も長大な連続トラスで、存在感は相当なもののはずですが、横に並べてみると架設タワーの存在感がはんぱないです。

主役のアーチは三角側からだと一号橋の歩道を歩くと見えます。
それぞれ勝手な目的を持った行き先の違うケーブルは、東南アジアの電柱を思い出させます。
ケーブルの張力調整、形状管理、PC桁の張り出し架設用のワーゲン、現場継ぎ手の足場。あらゆる工種が詰め込まれています。楽しくて気が変になりそう。
ケーブルエレクション工法は特にヒンジ連結でつないでいくと形状管理が難しいので、現場接合はボルト添接が採用されるのが基本、とされています。最近、一括架設のアーチや海外の例を最近よく見ていたので、全ボルト添接は久々に見た気がします。
ケーブル定着用のアンカレイジも架設が終わったら無用です。潔いです。美しいです。

最近、テレビで、架設タワーの隣の敷き鉄板の上を舞台にした日産キャラバンのCMを見ました。車のCMは橋を通過するものが多いですが、この工事現場を題材にするとは目の付けどころがしぶい。

2017年2月26日日曜日

カラトラバの傑作リエージュ駅

カラトラバの傑作リエージュ駅 (Liège-Guillemins railway station, 2009)

カラトラバ氏の設計。ベルギーの南、リエージュ州の州都の駅です。
建設は1996に始まり、13年かけて完成しました。鉄道で分断された街を橋でつなぐというコンセプトがあり、ホームの下の売店があるフロアが広場から平面で入れます。
屋根のアーチスパンは160m、高さ32m。ザハさんの新国立競技場案はこれの2倍かと思うとやっぱでかいですね。見てみたかった。。
リエージュ駅には、オランダのマーストリヒトから鉄道で入りました。約30分。6Euroぐらい。
ドームに列車が吸い込まれ、その空間に降り立った時のなんだこれは!!感は、これまでで最大級です。
どこから手を付けていいか分からない感じで、あちこちにカメラを向けながら1時間以上かけて駅の中や外を歩き回り、じわじわと力の流れや、細部構造に目が届くようになりました。
カラトラバの作品でときどきがっかりする簡易な接合構造(支承、ケーブル定着、伸縮)など細部構造はなく、また、大きな圧縮部材に無理に鋼材を使うこともなく、安心して見られます。

構造は主屋根はバランスアーチ。入り口の大きなアーチのみ、大きなコンクリートのブロックと複合構造になっており、ここは他定アーチのようです。
屋根の架設検討をしたGreischのHPに10本の梁がついたアーチ屋根のブロックを水平移動させてる動画がありました。
http://www.greisch.com/en/projet/liege-guillemins-railway-station/

アーチリブ基部のコンクリート製リブの造形が良くできていると感じました。
カラトラバ氏はコンクリートもこのような迫力のあるデザインを出すのに何で鋼構造優先で使いたがるのだろう?
上の写真はバランスアーチの屋根を支える基部です。叩いても響きがなく、鋳物とみました。ここは高価です。主屋根は2重アーチになっていて、アーチの形式は、同じくバランスアーチの夢舞大橋(世界初の旋回浮体橋、Lc=280m。大阪オリンピック誘致で建設)と同じです。

カラトラバ氏の作品は、無駄遣いとの批判が常につきまといますが、同じアーチの夢舞大橋で浮体橋を留めるピンなど、材料費を湯水のように使っているのはあちらの方が上ですね。
ちなみに、夢舞大橋は大阪オリンピックの選手村へつながる予定の橋として建設され、その工事費はこの駅の1.8倍。この惑星のオリンピックは異常な金銭感覚を生み出します。

屋根は、基礎のコンクリートが目立つ両端の大アーチが屋根全体を支えているのではなく、多数並んだ骨組み一つ一つが支えているようです。部材は、矩形断面の下面に鋼管部材を溶接する形状になっています。端部の形状の処理も丁寧で、この製作はよく根気よく溶接したものです。
ユーロ圏では、見た目以前に、設計がボルトの設計をいやがる傾向も実は感じるのですが、ここはカラトラバ氏とリエージュ市の熱い気持ちの結晶でしょう。
フランス語圏のリエージュ人はプライドが高く、周囲と区別する閉鎖性があるそうです。そのような気質がこのような大事業を成功させたのかもしれません。
隅々まできれいです。
カラトラバ氏初期のバックデロダ橋アラミージョ橋とは完成度が違います。
維持管理も珍しく?配慮されているようです。
気になる工事費は312million Euro (約370億円)。

京都駅ビルが1200億円。日向市駅88億円(内藤廣、連続立体交差事業)、新幹線駅の設置例で三河安城駅が事業費137億円。
安くはないですが、リエージュ駅は普通の駅よりもっとはるか高値を予想していました。

同じスパンを飛ばす構造物で、橋と比べると、構造(橋)+壁・屋根・設備=建築になるとやはり構造部分以外の金額は大きいと感じることはあります。

工事費が高い代表で、アーチ屋根つながりのザハ氏の廃案になった新国立競技場案。
アーチスパン350m。この工事費は2500億円で、この費用の高騰は、屋根を支えるアーチ構造部材(キールアーチ)が原因と言われていました。
キールアーチの鋼材は約9,000ton。屋根材の鉄骨を入れて20,000ton。

比較対象として、他の国家プロジェクト、明石海峡大橋の鋼材は高強度のケーブルや一般橋でほとんど使わない高強度鋼材が使われて212,000ton。一桁違います。
国立競技場の鋼材量20,000tonでは、明石の主塔1本も立たないです。それでいて事業費は5000億円。水深50mの海底基礎や、深さ60m直径85mの巨大なアンカレイジを含み、その後の海外の吊橋に比べると工芸品のような精度なのに、新国立競技場の値段と比べるとあまり驚かない差になっています。というか新国立競技場の見積もりが異様に高い。

また、天草で工事中のアーチ橋新天門橋(タイドアーチではないので安上がり。)は、新国立競技場とほぼ同じアーチスパン362mで、鋼材4200ton。工事費は”たったの”90億円です。
90億円の工事のしびれる架設機材は別ページでご覧下さい。2つ作っても180億円。3つつくっても270億円。
2500億円なら28本新天門橋がつくれます!

どうも私の感覚では値段がつり合いません。

橋梁エンジニア周辺では、どう考えてもキールアーチだけで何千億の原因になるわけがないだろう、ゼネコンも相当ふかしたもんだ。という意見を、年配の実務を経てきた人ほど言っていたような気がします。
キールアーチに輸入材を検討している、など当時の関係機関のコスト縮減案は全く子供だましです。

結局、新国立競技場は1550億円に落ち着きましたが、屋根は観客席の上だけ(屋根覆わなくてよけりゃそりゃ全然違うでしょうよ。)、収容規模も小さくと、前提条件を当初案から変えて原因をうやむやにして、ザハ氏を悪者にし、伊東豊雄氏を当て馬にし、日本らしい閉塞感に満ちた結末でした。
この辺の議論は、内藤廣氏が意見表明されたり、ネット上でもいろいろな議論がありましたね。
http://www.naitoaa.co.jp/090701/top/forarchitects.pdf

こういう施工者、発注者主導による混乱をいやがる建築家は、フランク・O・ゲーリーのように、建築家が施工図設計や工事費の管理を一通でやる方向に進んでいくのでしょう。

だいぶ話がそれましたが、この駅が370億円*ならば、鋼構造の製作はきれいだし、リエージュ市はいいものを遺したのではないかと私は思いました。
*日経アーキテクチャの記事では160Mil Euro(1999)から、北京オリンピックによる資材高騰で460mil Euro(2008)に跳ね上がったという記事もあり、実際は怪しいかもしれません。
さて、リエージュ。日本では、東京オリンピックのエンブレムがリエージュ劇場のマークの盗用だと訴えられたことで一時期有名になりました。
ベルギーと言えばクラフトビール。ブレ(Boulet à la Liégeoise)というリエージュ名物の肉団子を食べながら、クラフトビールを厳選できずに、ふらふら夜の道を帰りました。
瓶の奥にずらっと並ぶ樽生ビールのタップ。入ったのはラ・ヴォードレーLa Vaudréeというバー。

2017年2月18日土曜日

カラトラバのなんちゃって斜張橋三兄弟

カラトラバのなんちゃって斜張橋三兄弟 (Lc=30-80m, 2004)

オランダHoofddropの、カラトラバの設計による3橋梁をスキポール空港側から順番に見学しました。橋が架かっている路線は2車線で、交通量は多くないです。

1.リュート
巨匠の作品に”なんちゃって”と言ったのはこのロッド。おそらくこの橋はケーブルがなくても落ちません。ケーブルの主な役割は、鉛直荷重の分担よりも主塔を倒れないように支えるのが目的ではないでしょうか。
合理的な構造として、この橋の骨組みの思想を考えるなら、リングガーダーの端部を吊った曲線橋です。また、塔に曲げモーメントを入れないために、最上段のケーブルを塔の近くに定着し、塔に水平力がはいらないようにした。という説明になると思います。でも、実情は大部分は桁の梁そのものが支えているのではないかと。

この橋でも感じられるように、この3橋は、構造条件の必然性からではなく、3つのオブジェをこのルートを特徴付けるためにカラトラバに依頼された、という見方でよいと思います。3橋の共通点はバックスパンのケーブルの張り方。上のケーブルは内側に定着、下のケーブルは最外に定着し、遠くから見るとケーブルの外縁が曲線に見えます。
重量が大きくなる桁の最縁端を吊るケーブルを思い切り寝かせて最も大きな張力が入る構造でも、塔を支えるオブジェならこれでいいのです。

2.シタール
写真右側の跨道橋を吊った水平力と、小さい運河橋を吊った力をつり合わせているんですと言いたいのはわかるのだけどバランスしているとは思えない。
カラトラバの橋梁の中では桁断面がきれいです。オランダは全般に鋼構造の製作がきれいなように感じます。
塔の軸線がずれてます。自動車走れます。

3.ハープ
唯一、構造形式が斜張橋と言えそうな橋。写真では下の3本のケーブルはケーブルらしい断面積を持っている。上の5本は、これも飾り疑惑。
カラトラバという設計家は、場所も設計条件も眼中になく新しい構造アイデアを実現することに夢中なのではないか?と感じる場面にちょくちょく出会います。この3兄弟は、運悪く、場所も設計条件もマッチしない場所に置かれてしまったように思います。基本的に彼の設計は草原や田園のような広い背景には似合わず、都会向きと思っています。

場所はスキポール空港から距離は3,4kmですぐ近く。空港でレンタカーに乗ると、左ハンドルに慣れる間もなく、高速に乗り、即降り、鉄道をくぐって、橋の近くに路駐の場所を見つけて、となるので近すぎて結構あたふたします。
昔エリア88というマンガで、ランニングテイクオフのあと一回ひねり、そして急上昇、これは曲芸じゃない、戦闘飛行だ、、とシンがつぶやいていたのを思い出しながら、小さいオペルを運転しました。

2017年2月11日土曜日

ローマのアーチ

ローマのアーチ (Ponte della Musica-Armando Trovajoli Lc=200m, 2011)

設計はロンドンのBuro Happold、アーキテクトはPowell-Williams。
2013年に亡くなったアルマンド・トロヴァヨーリという作曲家の名前が冠されています。私は知りません。
シンプルなアーチ橋の幾何形状をうまくアレンジしています。単純なだけに、部材の断面や、吊材にセンスが求められたと思いますが、この橋は成功したきれいな橋と思います。歩いて5分くらいの所に、シンプルとはほど遠いザハハディッドの国立21世紀美術館MAXXIがあります。

橋面の石畳は橋の上の一部まで共通化させています。現在は、歩道橋として使われており、将来はトラムやバスの通行が考慮されていると設計者の説明にあります。
アーチリブは鋼アーチ区間が130m。アーチリブ断面は涙型を傾けた形。説明しにくいので申し訳ありませんが、ネットに上がっていた図面を貼り付けます。白いアーチが形を強調しすぎず綺麗な形に見えました。
アーチリブは、桁とは接続していません。なのでアーチの水平力はコンクリートブロック下にあるであろう基礎で受けています。
橋の下の広場ではボードの練習中。橋上も橋の下も広々と開放的で、都市のペデとして好ましい形態と思います。
アバットにPC鋼材か定着ロッドの頭が4つ見えます。耐震用の落橋防止装置でしょうか。イタリアは地震国ですが、ローマ周辺はそれほど大きな地震発生地区ではないようです。桁に軸力が入っていないアーチなので、常時の構造部材とすると役割がわからない。なんだろう。

場所はローマ市の北、ザハのMAXXIから西に5分。対岸のローマ・オリンピックスタジアムを結ぶ位置です。
ところで、事業費がイタリア語のサイトで8millionユーロ(約10億円)と読めます。そこまで安くないだろうと思うのですが、ご近所のMAXXIの150millionユーロ(約165億円)と比べると、公共事業(橋)というのは買いたたかれる運命にあるのかなと感じてしまいます。
気を取り直して、アクセスは地下鉄A線Flaminio駅を外に出て、ここ始発のトラムに乗り換え、4つめApollodoroが最寄り駅。西にむかってMAXXIを通り過ぎ約800mです。
トラムは途中で分岐してサンピエトロ寺院の方に行く路線もあり。