2016年10月9日日曜日

ユトレヒト大学の学校施設エデュカトリウム

ユトレヒト大学の学校施設エデュカトリウム (Educatrium, 1997)

ユトレヒト大学内にある施設で、一階に食堂、二階にそれぞれ500人収容の2つの講堂が入っています。(以下、学食)
設計はレム・コールハース。
同じ斜めのスラブを持つ建築で、コールハースによるクンストハル美術館では、構造デザイナーのセシル・バルモンドが、斜めの床と、それに直交する斜めの柱の構造を提案しています。
この美術館の説明によると、斜めの柱を建てる目的が先にあって、斜めの柱による水平力(曲げモーメント)を中間の斜めの床に取らせてその床の下の水平力(曲げモーメント)をキャンセルさせたと、バルモンド氏の著書で読みました。
この学食の構造設計は同じ人かはわかりません。
この学食では、基本的に柱は床の傾きにかかわらず鉛直です。しかしながら、最もファサードに近い柱が、魅力的で気にさせてくれます。
コンクリート側が圧縮、鋼材側が引張と考えると、1本の柱に置き換えれば、クンストハルの床に垂直どころか反対側に傾いた柱と等価になってしまう?おや、と思うと傾斜の上側の柱は、コンクリートと鋼材が逆になったV字です。
単純に考えれば、スパンを飛ばしたV柱とV柱の間の天井のスラブの曲げを支えている+水平移動を固定している、となりますが、答えはどうなのでしょう。

このような設計・施工の面倒な組み合わせを躊躇なく入れるのは面白いです。部材それぞれは単純なのにひっかかりました。しかも、この組み合わせは建物の中でここだけ。

下の写真では手前のホール側は丸柱、奥のほうは角柱で、手前と奥で一度構造をリセットしたような感じです。
土木分野では、大規模構造の中で、連続性を生かした構造に美しさを感じることが多いです。ですが、この建築は、そんなことをやっている暇はない強烈な詰め込みぶりです。
他の建築も見てみたいと思いました。

→(追記)
さて、実物を見て1年以上経って、構造エンジニアとV字の柱の理由がわかりました。
構造エンジニアはオランダのエンジニアリング会社ABTのRobert Nijsseのグループです。
V字の柱がここだけにある理由は、2階の曲面壁側にある2つの講堂の4つの壁のうち、道路に面したこのV字の柱が設置されている壁だけがガラスで出来ていて、設計者コールハースの意向で、そこには柱が立てられなかったという制約から生み出された構造とのことです。
35mスパンの屋根のスラブを支えるために、”スパンを飛ばしたV柱とV柱の間の天井のスラブの曲げを支えている+水平移動を固定している”となったようです。
その他にも、講堂(20mスパン)や下の写真のような広い空間についても、スラブの厚さは全て400mm以下との条件があったそうです。

コールハースという建築家は、建築の成り立ちとなる前提条件を整理した、建築でいうプログラム、ダイヤグラム、時に物語と呼ばれるものを作るのが優れているそうですが、それはざっと見学しても何となく詰め込んでいるなあという程度しか分かりませんでした。

ただ、デザインに見える斜めのスラブは、スロープとして一階と二階の境界をなくし、ホールの傾斜となり、駐輪場を分割し、無駄がない構造体として機能していること。丸かったり(ホール)、広かったり(食堂)するスペースが、ひとつの特徴のある形の建物に上手く収まっているなあと感じました。

学食は学校の施設なので、カメラをぶら下げて入るのはほんの一瞬ためらいます。でもひとつ見せてもらったおかげで、いろいろなコールハースの記事の内容が頭に入ってくるようになったので行ってよかったです。

大学内はこのほかにも派手な建築物が多くあります。
NMR研究所、UNスタジオの設計

学食前の駐車場はコイン式で30分無料です。もちろん部外者用ではありませんが。。

2016年10月8日土曜日

リスボン万博シザのパビリオン

リスボン万博ポルトガル国パビリオン (Portuguese National Pavilion Expo 1998, Lc=80m)

パビリオンのアーキテクトはアルバロ・シザ。エントランスのキャノピーの構造デザインはセシル・バルモンドのグループ(Arup)です。
シンプルで今まで感じたことのないスケール感をもつ構造です。大きくて細かいところがないので、とりあえずは立ち尽くします。

バルモンドが建築と都市AUの記事で、このキャノピーの計画について、
「当初、私はマストとケーブルそして軽量な金属の屋根によるハイテクな解決策を考えていたのだが、そのデザインは軽やかではあるが強さに欠け、気候やシザの作品がもつ雰囲気にふさわしい永続性や実直さをもち合わせていないと考え、そのアイデアを反故とした。」

と述べています。アーキテクトと構造デザイナーでどのような擦り合わせがあるのかわかりませんが、確かにシザとハイテク素材の組み合わせはピンときません。永続性という点では、16年を経過してなお美しく古さを感じさせない状態で、構造デザインの力量を感じます。
吊床版の厚さは150㎜。浮かんでいるように見えるスラブの重量は1000トンです。ポストテンションと説明があります。
施工ステップを見ると、支保工で完成時のカテナリーの位置でスラブを支えたまま、両方の建物から、両端に空間を開けた状態でケーブルにテンションを入れています。幅の広い吊り床版橋。
両側の建物は頑丈なリブが支間方向に入っており、1000トンの自重による水平力を支えるアンカレイジになっています。
コンクリート表面は美しく、プレストレスが効いています。

場所はリスボンオリエンテ駅から海側へショッピングセンターを抜けて徒歩5分です。
オリエンテ駅がカラトラバのこれまた”なんだこれは”な建物なので、駅を降りてから、一度立ち尽くしてこのパビリオンまで2時間かかると申し上げておきます。

アルムヘム中央駅、解析技術と形態

アルムヘム中央駅 (Arnhem Central station, 2008)

アーキテクトはUNスタジオ。構造デザインはセシル・バルモンド(Arup)。
駅は、エントランスホールと、駐車場・バスターミナル・オフィス棟の2つが連続しています。
奇々怪々な形状をしたエントランスホールです。美しいのかどうかというより、面白い形だなという印象です。
特徴的なねじれたスロープは、飾りのように見えて、ねじれた中心の壁のようなものと、天井が垂れ下がってきた壁が建物を支える柱になっています。

構造の発想としては、バルモンドやコールハースの著書で見かける、壁であり、柱であり、床となる、自由な構造体の究極な形です。コンピューター設計ができることを形としてあらわした建築の中の一つといえるかと思います。

材料の進歩とともに、解析技術の進歩もあたらしい構造物を生み出します。

橋の世界でいえば、変形法による解析が一般化したおかげで、マルチケーブルの斜張橋が世界中で作られるようになりました。張力の相互作用が手計算では到底追いかけられなかった時代には、数本のケーブルに集約し、ケーブルの張り方はハープタイプの配置が主流でしたが、最近では、マルチケーブルの橋が中進国でも当り前のように設計されるようになりました。
これも、せいぜい30-40年くらい前に電算機の性能とそれを生かした数値解析ツールが発展してからの話です。

常識は常に更新していかないといけません。

この建物のように、床、柱、壁の概念が混ざると、おそらく建築設計基準にも、床、柱、外壁ごとに設計基準があり、または、材料ごとにコンクリートスラブ、複合柱などで基準が定めらていると思うので、途中で役目が変わっていく主構造に対して、そういう基準の壁を乗り越える必要があると思います。
設計者は、床と壁の遷移部分も自信をもって力学的に説明できると思いますが、基準には、経験的に積み上げられた規定、これも、過去の失敗、被災から学ぶたびに更新される貴重な積み重ねがあります。

少なくとも日本ではこのような基準内の適用の解釈を柔軟にすることは容易ではないだろうという気がします。

オランダはこのような構造物が多い気がしますがどうなのでしょう。

この常識を超えた構造を見ながら、新しい技術で複雑な構造を解くチャレンジだけではなく、現実社会の許認可を突破するだけのエンジニアの深い知見とエネルギーが必要だったのだろうなあと、想像しました。
このねじれが柱に見えてくるには時間がかかります。

コルビジェはじめ、現代建築ではスロープが建築の大事な接続に象徴的に使われているようですが、このホールはほとんどがスロープで階層が接続されています。
おかげで、入り口からプラットフォームへ行く流れ、トロリーターミナルからオフィスへ行く流れ、自由な人の動きを阻害するものはなにもなく、自由な空間になっています。

ところで、アーネムにはデュッセルドルフからICで到着する予定でしたが、寝過ごして次の停車駅ユトレヒトまで行ってしまいました。おかげで、この日の予定は2時間遅れ。
今も出発のピーが鳴ったときの焦りを思い出します。
寝坊の原因?デュッセルドルフ名物、わんこそば式アルトビール。ビールが空に近づくと、トレイにたくさんのグラスを積んだウェイターが新しいグラスを置いていきます。写真ではコースターに4本線が入っているので、250ml x 4=1L。
一日歩き回った後のアルトビールはほんとにおいしい。

クライミングウォールの製作(その2)ホールド作り


クライミングウォールの製作(その2)

[ホールド]

ホールドは購入するつもりでしたが、子供にもったいない、作ろう!と言われて、木で製作しました。
意外と簡単に作れるようになったし、とくに不自由もないのでうちは全て木製です。

ホールドの木は、近所の新築の家の端材や購入した厚板から切り抜きました。
ホームセンターではホールドにできるような厚みのある板はないので、無垢材を販売されている信州・黒姫のとっこやさんというところでネット注文しました。ホールドに適した、小片で、硬くて適度に加工しやすい広葉樹が良心的な値段で販売されてます。
ジグソーの歯で切れるのは厚さ70mm程度で、そのくらいあればだいぶ遊べるものが作れます。

加工手順
1.板に外形をけがく。
2.ねじ山の埋まる大きい穴をあけ、ついで貫通する小さい穴をあける。
3.ジグソーで外形を切断。
4.くぼみなど傾きをできるだけジグソーで削り取る。
5.グラインダーで好みの形になるまで削り出す。

ざらざらした感じがよいので、仕上げのやすりがけはしていません。
ジグソーで形をとったところ

うちのグラインダーの回転数は12,000回転で高速すぎて、堅い木材は簡単に焦げてしまいました。また、替え刃は紙ヤスリの束とはいえ、皮膚に当たればえぐれます。

ということで、スピードコントローラーを追加で購入しました。
購入したスピードコントローラーは新潟精機SP-110。他に安いものもありますが、安いものは低速でカクつくとの評価があり、この製品にしました。低速まで安定して減速できる良い製品でした。グラインダーと、もっと危険なトリマーを使うときの必需品になっています。
私の仕事場、鋼構造の現場では、みなさんグラインダーを手足のように使っていますが、革手袋必着で、しっかり防護して、誤動作がないように集中しないと恐ろしい機械です。

グラインダーを使う前は、削り出すためにやすりや彫刻刀を駆使したり、ドリルにやすりのビットをつけて削ったりしましたが、グラインダーを使うと作業性100倍。それまでやってたことがばかばかしくなります。

ついでに万力付きの作業台もつくりました。

写真手前左のすのこ台ではちょっと無理が出てきたので。
天板は黒姫のとっこやさんで出ていた玄圃梨(ケンポナシ)。木工の練習がてら作ったぜいたくな作業台です。やすり掛けして透明ニスを塗っただけできれいに木目が出ました。

外に置いていたら、万力がさびてきたので、スチールウールで錆びを落として、メッキ部材の保護でおなじみのローバルを塗っています。
家でローバルを使うとは思わなかった。

[マット]

下が不安だとやる気がなくなるので、30cmの厚いマットを準備しました。
市販品は高いので、スポンジとカバーを別途購入して、自作しました。自作といってもほぼ加工の要らない状態で届くので、スポンジを接着して、カバーの中に入れるだけです。

スポンジはストライダー社様に注文しました。
スポンジの外のビニールカバーは、指定サイズを製作してもらうとかなり予算オーバーとなってしまうことがわかったので、市販の交換用カバーのサイズ(1,500x2,000x300; 中津テントKS-338)にあわせて、中身のスポンジを注文しました。

スポンジの標準製造サイズが1000x2000だそうで、足して目的のサイズになるように300mm厚と150mm厚の標準サイズスポンジを切断して送ってもらい、2つのスポンジを3Mスプレーのり77で貼り付けました。150mm厚を2枚重ねて500x1000x300mmにするところはストライダー社様でやっていただきました。

値段はカバーが28000円、ウレタンが25000円+送料、消費税。ウォールを含めた総制作費のだいたい半分がマット代です。

[クライミングシューズ]

シューズは目白のカラファテさんで購入しました。
我が町の登山用品屋さんでは子供サイズのシューズは在庫が無く、東京まで出向きました。店員さんの知識も品揃えも豊富で行って大正解でした。
クライミングシューズのサイズは、レンタルシューズで使っていたものより、さらにきつきつのサイズが適性だったことを知りました。大人は、裸足ではいて、30分くらいが限界と思えるくらいでちょうどいいとのことでした。

2016年10月5日水曜日

セビリア大聖堂 とアルカサル

セビリア大聖堂 (12世紀~16世紀)とアルカサル(14世紀~16世紀)

セビリア大聖堂はヨーロッパで三番目に大きいといわれる聖堂です。
ゴシックの特徴のフライイングバットレスが、規模は小さいですがささやかに見えます。聖堂が十字の建物なので、十字の角ではバットレスの内側の曲線が交錯し石積み構造とは思えない複雑な構造を外に見せています。
かっこいです。

頂部はゴシック的な尖塔ではなく、ドームで、ルネサンスが混在しています。ドームの補強の部材がおしゃれです。
教会の建設には125年かかっており、聖堂につながるヒラルダの塔を持っていたイスラム教のモスクから数えると300年以上かかって現形になっています。そう考えると、サクラダファミリアが100年以上時間がかかるのはこの国では特別なことではないのかもしれません。
ヒラルダの塔
アルカサル

アルカサルは、14世紀にイスラム時代の城塞を改修したスペインの王室の宮殿です。セビリア大聖堂に広場をはさんで隣接しています。
14世紀のペドロ一世がイスラム文化に心酔していたおかげで、キリスト教の大聖堂の横で、イスラム時代の宮殿をさらに発展させたこのような美しい宮殿が残されました。

イスラム様式の建築物はいくつか見ましたが、背の高いドーム構造で大空間の創造を成し遂げたミナール・シナンのイスタンブール、絨毯やシャンデリアなど材料で贅を極めた近代UAEと比べるならば、クラフトマンシップの頂点アルカサルという感じです。
アルカサルの職人は同時代に建設されたアルハンブラ宮殿の職人が派遣されてきたそうです。細工が非常に細かく、現代的な時間の進み方ではとても完成するまで待てない装飾ではないかと思います。

装飾は非常に細かいのですが、イスラム建築の禁欲的な控えめさがあり、そよ風や外の緑の雰囲気が部屋の中で感じられる静けさもあります。
観光情報として、朝一で見学できる場合、入り口の開場時間9時30分の15分前くらいまで、入場の列が出来ずに広場にもやーっと人が集まっています。このとき、ライオン門の前に自分で列を作ってしまうと先頭で入れます。うかうかしていると早く着いたのに列の後ろで入場券を買うために待たされてしまいます。

団体さんが来る前に、静寂な中庭を拝見できるとよいと思います。


セビリアの逆Yアーチ バルケタ橋

セビリアの逆Yアーチ バルケタ橋 (Puente de la Barqueta, Lc=165m, 1992)

カラトラバのアラミージョ橋の下流1kmにあるアーチ橋。
設計はMarcos J. Pantaleón Prieto。アラミージョ橋と同じくセビリア万博に合わせて建設された橋。
横から見るとケーブルが鉛直ではなく末広がりに見えるのは、1面のアーチリブを路面位置で開いて、股の間を走行車線としており、開く前のアーチ部分から桁を吊っているためです。

この形式のアーチは、アーチ部材が上部では1本でシンプルに曲線の美しさを表現でき、かつ、桁中央にアーチが割り込まず、桁幅を拡げなくてよいので、最近大きな橋で適用されています。
この橋はこの形式では早い方と思います。

この形式のいくつかの橋を見ると、その分岐部の構造や、アーチリブをどこで開いてどのようなアーチの軸線とするか、微妙なところで印象が大きく変わってしまうようです。
この橋は、比較的支間が短いため、走行車線を避けるために、アーチの足の角度は開き気味で、橋の外に張り出した桁に定着しており、苦労しています。
表面に溝を入れる意匠や、桁とアーチの下弦材の接続などを見ると、構造ディテイルは日常見ている鋼構造とは違うアプローチで、コンクリート構造から派生したデザインのように感じました。
アラミージョ橋からバルケタ橋にかけて、東側の歩道は夕方から暗くなってもランニングしている人が多く、怖い感じはありませんでした。
反対岸は階段がありましたが薄暗くて怪しい雰囲気で降りれませんでした。

2016年10月4日火曜日

セビリアの斜めの鋼主塔を持つ斜張橋

セビリアの斜めの主塔を持つ斜張橋 (Puente del Alamillo, Lc=200m, 1992) 

1992年のセルビア万博に合わせて建設されたアラミージョ橋。設計はサンチャゴ・カラトラバ。氏の作品としては比較的初期のものです。
主塔は遠くで見るとエレガンスですが、近くで見るとごついです。それもそのはず、主塔高は140mあり、桁から上の塔の高さからすると、600-700mクラスの斜張橋の塔に匹敵します。しかも、中央の1本主塔なので2本分の太さです。
子供たちが塔基部の曲面をすべり台にして遊んでいました。
主塔はてっきりコンクリート製で主桁の重量とバランスさせているかと思ったら、全て鋼製でした。これでカラトラバにひっかかったのは基部のデザインを見ていなかったモンジュイックの丘のモニュメントについで2回目です。年表を見ると2つの構造は同じ年に完成しています。

単純に桁と塔で、それぞれの単位長さ辺りの重量が同じとすると、この塔の角度58degでは、桁の重量に対するカウンターウェイトとして塔の重さだけではバランスはしないので、塔に強度/重量比率の高い鋼材を使うことが適材適所なのか、正体を見たときに期待が半減してしまったのは偽らざるところです。当初、万博会場の反対側にももう一つ橋を架ける計画であったのが、資金ショートでかけられなかったというのも分かります。

ケーブルは塔から中央の歩道の両端に定着しており、箱桁もこの歩道下の小さいBOXです。ここから、ブラケットを張り出して車道を支えています。張り出しが長く4m程度。
1面吊り(この橋は狭い幅の2面吊り)の構造は、ケーブル構造では桁のねじり変形に抵抗出来ないので、桁は幅広の箱にしてねじりに抵抗するのが常道ですが、この橋は比較的箱が小さいです。200mなら問題なかったのかもしれません。

遠景はハープの音が想像される美しさです。遠くから愛でることにします。
橋へのアクセスはセビリアの長距離バスターミナル付近から、川沿いに走っている06番のバスで橋が見えてきたら、その辺で降ります。C3番のバスも川沿いの同じルートを走り、市街をまわってくれるバスです。バスは前乗りで運転手に1.4EUR払います。町中のトラムはホームの自販機でチケット購入。

2016年10月3日月曜日

ネイメーヘンのFRPアーチ

ネイメーヘンのFRP橋 (Ooypoort Footbridge, Lc=56m, 2014)

ネイメーヘンのシンボル的な大きいトラスアーチWaalbrugのたもとにあるビーチへ行くための連絡橋。
建設はMEERDINK BRUGGENという会社で、HPを見ると、水路の橋や、公園の橋のような小規模の橋梁を得意としているようです。木造の施工例が多く、FRPは重量が軽く施工が容易という共通点があります。アーキテクトはOlaf Gipser。設計計算はLightweight Structures BV。

橋を渡ると、橋の頂上から別世界の砂浜が広がるという楽しいアプローチを与えてくれるゲートになっています。
見に行った日は暑い時期だったので、手前側の駐車場やレストランなどがあるエリアと、川岸のビーチを往復する人がたくさんいました。

架設中の輸送の写真を見ると、かなり軽そうで、人力での取り扱いが容易そうです。
http://www.compositesworld.com/news/dutch-bridge-claims-to-be-largest-single-span-composite-bridge-in-the-world

グラスファイバー(GFRP)の橋としては世界最長とのことです。この形式とした理由は、上流にボートを入れる必要があり航路条件をクリアすること、高水時には一時的に吊り上げてしまうことまで考えられているようです。
取り付け部はピンを抜けば簡単に取り外せそうです。
この橋、軽量なFRP橋梁の弱点がしっかり出ていて、非常によく揺れます。しかもビーチに人出が多く通行はひっきりなしにあります。
経験のない構造で、接合部、支圧部の強度、耐久性試験、疲労試験はどこまで確認されているのか?構造的には幅の狭いアーチで水平方向の大変形に弱いので、水平荷重への冗長性は持っておいたほうがいいと思いました。

新しい構造の点検はしっかり実施してほしいと願います。
貫禄ある隣のアーチ(1936建造)




ゲルゼンキルヘンの自然公園の単管パイプ橋

ゲルゼンキルヘンの自然公園の単管パイプ橋 (Landschaftspark Mechtenberg, Lc=30.4m, 2003)

ドイツ、エッセンの近く、Mechtenbergランドスケープパークの中の自転車道の橋。
設計者はProf. Dr.-Ing. Hilbers Ingenieurgesellschaft GmbHとあります。
なんとも見慣れた橋です。もっとすごいの作ってやると明日にも現場で組み始める人が世界中にいるのではないでしょうか。
橋の周辺はなにもない、ただ、原野と森を楽しむ公園です。施設としては、バードウォッチング用の視点場がありました。

事前に写真を見た時は、正直、ださい、寄る価値があるか悩みましたが、この場所に組み立て・撤去自在な、(実際には、支承部の長さ調整用リブなど、きっちり製作されています。当然です。)、”完璧な”とは形容しにくい隙のある構造は、自然を壊しつつ、いい加減で原っぱの中に似合っています。

ドラえもんの空き地に土管があるような自然。

作りも、ボルトが抜けてたり、支承が浮いていたり、やはり隙があります。不静定次数はめちゃくちゃ高そうですから問題ないでしょう。

これはありです。妙な造形を持ってくるより親しまれていると思います。


2016年10月2日日曜日

ズウォーレの薄い床版歩道橋

ズウォーレの薄い床版歩道橋 (Rodetorenbrug=Red tower bridge, 全長81m, 2013)

オランダのズウォーレの城壁に囲まれた中世の市街と西側をつなぐお堀を渡る歩道橋。
設計はNEY & PARTNERS。
橋名のRed Towerは城壁から外へ出るゲートの名前だったようで現存しません。近くに赤い塔もなく、橋にも赤い塔がないので、だいぶ調べてしまいました。
といってもネットでGoogle翻訳を活用して見つかってしまうのでお手軽な時代です。
橋の特徴は薄い床版と薄いアーチ。板の剛性を”曲げに耐力がある部材、圧縮に耐力がある部材”として考えた、目からうろこの構造。
通常、道路橋の設計図を描きながら、「ここは力が入らないから最小厚6㎜でいいや、でも溶接でやせ馬がでちゃうなー」 なんてペラペラの紙のようなイメージで鉄板を扱っていますが、実際、6㎜の板でも人間に力で曲がるようなものではないです。

それを歩道橋の荷重なら板で十分とばかり活用しています。
トラスを組んでいるので、アーチリブと呼ぶかわかりませんが、基本的に圧縮力が作用する下のリボンは6㎝の板です。
床版はアーチ構造とするとどちらかと言えば引っ張りですが、床版なので曲げ応力がかかるのと、トラス作用があるので径間中央部はいくらか圧縮力がかかりそうです。この床版の厚さは2㎝です。
その圧縮力として想定外の力が働いてしまったのか、開通直後に、橋台と桁の隙間が十分ではなく、夏場の温度変化により桁が伸び、桁に作用した圧縮力により床版が波打ってしまい、西側伸縮の補修のために完全開通は1年遅れになったようです。

設計者の気合を感じるのは、設計では板だけで十分としても、いくらか想定外の軸力や製作・架設時の曲げを考えて、橋軸方向にリブの1本でも入れておきたくなるところですが、橋軸直角方向にしか補強を入れていません。
桁の裏側に橋軸方向に小さい補強を付けても誰も見えないので、こだわりですね。
私なら心配でたぶんトラスの内側に低いでっぱりを2列つけていると思います。

見に行った時期は9月の暑い時期でしたが、大きな変形はありませんでした。赤い服の人の先で少しうねって見えるのはその時の変形の名残でしょうか。

場所はGoogle mapの衛星写真にまだ出ておらず、迷ったので座標を載せておきます。
52.51373, 6.08906
雰囲気のよさそうな旧市街をかけ抜けてしまったので、次はテラスで休みながらゆっくりと散策したいです。

ネイメーヘンの緑の自転車道

ネイメーヘンの緑の自転車道 (‘t Groentje, Lc=60m, 2013)

オランダ、ネイメーヘンのS100道路上にかかるV脚ラーメン橋。'tはオランダ語の定冠詞。
設計はローランネイ(NEY & PARTNERS)。
橋は曲線橋にこの鮮やかなうぐいす色を選んだだけでもう勝ちです。負けました。
橋の名前は、橋の北側にあるCitadel College in Lentの13才の生徒により、”Het Groentje"(みどりのちいさいやつ)と名付けられています。名前のセンスも素敵です。
単純な構造を、曲線とディテイルへの執着でここまで気持ちのいいものに出来るという恐るべき橋梁です。

ディテイルとして、LEDを手すりに仕込んだ高欄の形態は圧巻です。
張り出し部の補剛リブの見え方も当然考えられているでしょう。
この橋は、2014年にネイメーヘンからアーネムへ延びる自動車道A325に並行して建設された”RijnWaalPad"と呼ばれる16kmの高速自転車道ネットワークの一部です。

オランダは自転車乗りには理想的な国です。昔、国道1号線を粉塵で目を真っ赤にして走りながら、高速道路建設のついでに自転車道付けてくれたらなーと夢想したことが現実にあるのですから。これで平地ばかりでなければツールに勝てる選手がたくさん生まれていそうです。

場所はネイメーヘン中央駅のとなりのLent駅の西隣を並行して走っています。
市街地なので車は止めにくいです。北側にある、この橋の名付け親のいる学校が終業した後のようだったので、敷地に止めて走って見学しました。