2017年2月9日木曜日

グッケンハイム美術館ビルバオ

グッケンハイム美術館ビルバオ (Museo Guggenheim Bilbao, 1997)

フランク・O・ゲーリーの代表作。

1970年代にバラナルド市、ビルバオ市など、ネルビオン川流域のビルバオ都市圏の鉄鋼業、重工業が衰退し、25%もの失業率、環境汚染を抱えた都市再生のひとつの目玉として誘致されたビルバオ市の中心的な建築です。
1989年にビルバオ都市圏再生戦略構想に基づき1992年に建設が決定されました。
美術館が建設されたビルバオで最も観光客が集まるアバンドイバラ地区は、鉄道の操車場跡地です。

ビルバオの都市再生はグッケンハイム美術館の成功が目立ちますが、再生戦略はいくつかの有名建築の誘致だけではなく、ネルビオン川沿岸の広域にわたる都市生活、環境改善のための再開発がなされています。地下鉄による交通ネットワーク、バラカルド市の50haの公園、生活圏の開発など各地区の開発が並行して進められています。
産業構造ががらっと変わる都市を継続させるには、一点豪華主義で再生できるわけではなく、グッケンハイム美術館などの芸術品は再生事業の最高のアドバルーンであったということかと思います。

往時はスペイン全体の60%の鉄を製造したそうですが、今では、ビスカヤ橋や、沿岸に遺されたオブジェからしか重工業地帯の面影は想像出来ません。
さて、目玉の建築物、現地で実物を見た印象は、大きさのわりにこじんまりして見えて、予想していたよりも驚きは少ない方でした。
なんとなくその自由な表面構成のおもしろさを、”やってしまった”とまでは感じにくいスケールのように思います。

一方で、そのエントランスを入った背の高いホールの骨組みの造形、ボリューム感は興奮しました。

鋼、コンクリート、石材、ガラスの素材の組合せ、ぶつ切りの形鋼や、ぶっとい円柱や大きな曲線で構成されている様、楽しいです、この無秩序な構成。見せてしまうと面白くない鉄骨の骨組みはうまく隠れて構造は気になりません。
この印象的なエントランスは、クライアントから、アナトリウムそのものがアート作品であるべきだという考えを手がかりにどこまで形をぐにゃぐにゃできるか突き進んだそうです。

フランク・O・ゲーリーの建築の評価は、構造は張りぼてであるが、そのデザイン模型から設計図面を作るシステムを構築したことは注目すべきである。と辛口に評されることがあるようです。

つまり、奈良の大仏様のように先に外見があり、骨組みはそれを支えるように配置してあるだけ。(だから、建築的にはちょっとね。という自負心、または、皮肉が含まれているように感じます。)
ゲーリーの建築は、極端に意匠寄りに傾いているために、好みで当たり外れが大きい作品群になるのかもしれません。

ただ、大仏様のように意匠中心の物体も、人にとっては”引き寄せられる物”です。
実際に、来館者数は最初の8年間で920万人と、当初予想の年間50万人を大幅に上回ったそうです。
ゲーリーの設計手法は、ダッソーシステムズ社が航空機産業のために開発したソフトCATIAからジム・グリンフがコンピューターシステムを構築したことで実現が可能になったと著書で説明されています。
スタディー模型から設計の作業は、模型をCATIAでトレースしてデータに変換し、それをCAD化し、骨組みを作り出し、2次元図面は最後に出来上がるという流れを構築することで、形態の自由度が実現されています。

もう一つ、彼のグループのコンピューターシステムで実現した機能で、彼の自由度を拡げるために模型のトレースよりももっと重要と思われる機能が、積算、施工図設計です。

ゲーリーの発言で、非常に親しみを感じた文章があります。

「(前略) ところが実際は施工業者はクライアントの所へ行き、「この壁を真っ直ぐにすると100万ドル節約できます」と言い、クライアントは「ワオ!」と反応するのです。しかも、クライアントはときどき提案をのんでしまう。また施工業者は、工費をにぎっていることから、設計プロセスの中で親的な役割を果たし、そして建築家の役回りは-クリエイティブな-子供と言うことになります。「クリエイティブなやつがまた来たぞ。気をつけろ」と言われるのです。」(フランク・O・ゲーリー アーキテクチュア+プロセス、繁昌朗、山口祐一郎訳)

土木構造物でここまで意匠寄りのものを作ることはないと思いますが、このような不自由度は理解できます。ゲーリーの大きな功績のひとつは、この悪循環をコンピューターシステムで破壊したところではないでしょうか。

出来上がる物が非現実的であればあるほど、極めて現実的なものと闘い、解を作り出す能力が必要で、やはりこういう建築を実現する人は化け物なんだろうなと思います。

wikiによると、工事費は8,900万ドル(約100億円)で、予定通りに建設されたとのこと。近くに橋を架けているカラトラバのように、どんどん事業費をふくらませるクリエイティブな子供と違い、案外、常識的なのかもしれません。
リチャード・セラのsnake
アンディーウォーホールなど展示物の力強さも構造に負けていない。グッケンハイムの力。

表面のチタンは高価なために厚さ0.38mmと非常に薄くされています。採用した理由はゲーリーにより耐久性の高さと説明されています。

美術館に隣接する橋。1972年開通なので、リハビリされた姿だと思います。ちょっと酷くないかい。

参考文献;岡部明子、サステイナブルシティ -EUの地域・環境戦略-, 学芸出版社

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