2016年9月30日金曜日

ボーフムのS字吊橋歩道橋

ボーフムのS字吊橋歩道橋 (Erzbahnschwinge, Lc=66m, 2003)

古い工場の跡地をリノベーションして公園と博物館にしたボーフムのWestparkの北西の入り口に架かる歩道橋。
設計はシュライヒ事務所(schlaich bergermann partner)。
Westpark内には、この吊橋の他にも品のいい歩道橋が2つあり、公園全体も隅々まで景観への配慮いきとどきよくできています。次のページに公園の写真をまとめます。

平面曲線を持つ桁を片面で吊る構造では、桁の回転中心をハンガーケーブルを定着する側に寄せないとバランスが取れません。さらに平面曲線がS字の場合には、桁の回転中心(桁断面の三角形の頂点)を断面内で右寄りから左寄りに変化させる必要があります。これを板で構成されるBOX構造で実現するとなると、ただでさえ線形がややこしいのに、ウェブがねじれてあまり製作図面を考えたくなくなります。

同じような吊橋の、コルトレイクのネイのS字吊橋ではこのめんどくさそうなことを高いレベルで実現していました。お疲れさまです。
この処理について、このWestparkの橋では、三角形の頂点を鋼管にして、断面内の位置をずらすことを容易にし、さらに鋼管のカラーにアクセントを与えることで、製作の容易さ、美観の面白さの両方を実現しています。

また、たとえ全体構造のバランスが取れていたとしても、塔に直角方向に作用する(かもしれない)水平力をとるために、塔頂から地面にアンカーケーブルを張りたくなるのが気の弱いエンジニアの人情ですが、それもしていません。

設計者の自信がうかがえます。

なお、ドイツの歩道橋のハンガーを止めるクランプはサイズが小さい気がします。
設計上の物性値の違いなのか、これはケーブルが細くクランプが目立つ歩道橋の設計には大きなアドバンテージです。

振動防止に制振装置が支間中央と塔位置についていました。



ライン-ヘルネ運河の単円吊り歩道橋

ライン-ヘルネ運河の単円吊り歩道橋 (Grimberger Sichel, Rhein-Herne-Kanal, Lc=141m, 2009)

ライン-ヘルネ運河のGelsenkirchen付近にかかる歩道橋。設計はシュライヒ事務所(schlaich bergermann partner)。
桁が平面曲線を持つ自碇式吊橋・斜張橋は、最近ヨーロッパで多く建設されています。
曲線吊橋では、橋を設置する範囲を広く取らないように、塔が曲線の内側に建てられることが多いですが、この橋はその中では珍しい平面曲線の外側にタワーを置くタイプ。

1本柱で吊っているので、塔の位置が橋梁の中心に近くなるように、塔が設置されている岸の橋梁延長が長くなっています。

ハンガー、メインケーブルは橋軸直角面内の角度があり、桁が吊られていない橋台付近の桁にはそこそこ橋軸方向に引っ張り力が作用しているはずで、桁がケーブルの延長のような構造となり、これが吊っていない区間が長くできていることに寄与しているのか、計算してみると面白そうです。

桁形状は、三角形で支間中央付近のハンガーの角度に合わせて外ウェブの角度が決まっています。

形態を鑑賞するときは、吊橋の構造を明らかに見てしまうより、塔を視界から外して浮遊している桁だけを見ると楽しいです。
塔の位置が地形的な理由で桁から距離を取らざるを得なかったのか、形態として桁から距離をとる面白さをとったのか、両方ありそうですが、塔が離れ、ケーブルが長くなり見た目のサグが大きくなるところを、放物線の二次ケーブルを使ってケーブルがごちゃごちゃした印象を与えていません。
塔高は45mと140mの支間にしてはかなり高いです。

歩いてみると見た目以上に安定しているのもサグが大きいためかもしれません。いろいろうまいなあと感心します。

塔のアンカー周りは数日前に訪問したわが先輩技術者が草刈りしていただいたそうです。ありがとうございます!その方は、駅からゲルゼンキルヘン動物園横を通って歩いてこられたとのこと。私はレンタカーで橋の北側の226号線の路肩に止めて見学しました。

ズウォーレの赤い鉄道橋

ズウォーレの鉄道橋 (Railway bridge over Ijssel, Lc=150m, 2011)

ズウォーレの古いトラスアーチの近くに架けられた鉄道と自転車道の併用橋。

入札はデザインビルドで行われ、受注者に基本設計が含まれており、設計者は読み取れませんでした。

橋梁形式は曲線の美しいトラス橋。
思い切って吊り材を太く、アーチのように見える上弦材を浅くしたことで、曲線の面をくりぬいたような造形に見えます。トラスの煩雑さ、やぼったさは一切ありません。

天気が悪く写真は残念ですが、赤色が周辺の牧草地に映えます。

構造物のスケールが大きく、かつ、ボリュームのある部材でざっくり構成される。ザハのアブダビの橋もそうですが、これは私のツボです。
構造として世間に正当化するなら、構造を構成する材片数が少なく、溶接延長やボルト継ぎ手数が少ない、製作性、維持管理に優れた構造といえるでしょうか。正直、好みを正当化する後付けの理由ですが、書いていて自分で納得してしまいました。
この橋の造形を効果的に示したのは、部材寸法の選定とともに、継ぎ手を全溶接としたことが要因としてあげられると思います。

構造によっては、明石海峡大橋の主塔のようにボルト継ぎ手をものともせず美しく映える構造もありますが、この橋の場合、全長930mの桁側面が途切れなく連続していることが、溶接継ぎ手としたことで強調されているように思います。
自転車道側の高欄、兼、縦桁の表面も連続させており、強い意思を持って連続させたようです。

日本では多摩大橋(アーチ)が同じように461mの橋梁を溶接構造で連続させています。日本は架設時の時間短縮と品質管理が容易なことからボルト接合を採用する傾向が強いですが、多摩大橋では増加する溶接作業への配慮とともに、特に目線以上の部材の溶接は大変美しく仕上げられています。
日本でも現場溶接品質の向上や詳細構造の改善とともに、人目に付くところは現場でも溶接接合とする選択が増えてきたようです。

この橋には自転車道が敷設されています。自転車交通量は多いです。さすがオランダ。
こういう道を通えたら毎日楽しいと思います。


場所はズウォーレ(Zwolle)駅から南西に2.5kmの場所です。橋の東岸の土手から河川敷の道におり羊さんたちの近くに車を止めて歩いて見て回りました。

2016年9月26日月曜日

バック・デ・ロダ橋

バック・デ・ロダ橋 (Pont Bac de roda, Lc=wikiによると46mだがアーチスパン70mはある、1987)

バルセロナにあるサンチャゴ・カラトラバの初期の設計。

4本のアーチリブを組み合わせた形態で、片側のアーチを構成する2本のアーチの三角形の回転をそれぞれずらして、アーチ頂部での接合を工夫されており考えられたなあと思います。

照明のデザインはそれ以後の構造物に共通するカラトラバ風なデザインが見られます。

一方で、形態は凝っているけど、疑問もわいてしまう初期の設計。

構造形式は、おそらく片側の2本のアーチを主構造のアーチグループとして、中央の車道の床版を支持しているのですが、その2本のグループの外側のアーチリブは基礎まで連続しているが、車道側のアーチリブは床版で止まっており、内側はローゼアーチ。構造解析をすれば答えは出るのだろうけど力の流れが明確ではない気持ち悪さが残ります。

また、アーチリブの結合部分の構造を見ると、アーチリブの全耐力と、ヒンジ部の構造、隅角部の構造が貧弱に見える。鋼コンクリート複合構造のアーチリブもスマートに収まっているけど、スマートにするだけの技術が入っているのかなという感じで、構造技術からすると初期の作品なので形状重視、と感じてしまいました。
穴に通したピンに2本のハンガーをバランスさせて止めているケーブル定着部も偏心が生じそうで、伸縮や支承など接合部の詳細は日頃触れる道路橋の設計と比べると、耐久性や不確定要素を割り切った感があります。
橋梁計画の大事な前提条件と思われるアーチリブと兼用の橋の下へ降りるための歩行者用階段はすべて進入禁止となっていました。
カラトラバ氏の構造デザインは、たびたび”なんだこれは”と岡本太郎ばりに驚かしてくれるので大好きですが、たまに、この構造は彼の脳内に先にモノがあって、それを設置する場所を解読することなく置いてしまったのでは?という構造物に出会うことがあります。

この橋の歩道にもそれを感じました。
ということで、カラトラバ作品に触れるのであれば、もうすこし後期のリエージュ駅などを見たほうが素直にびっくりできました。

場所はサクラダファミリアより北東方向。地下鉄Bac de roda駅から300m、橋を渡った先の地下鉄Navas駅からも歩けます。

スペインの大空間駅舎2つ、マドリードアトーチャ駅とサラゴサデリシア駅

スペインの大空間駅舎2つ マドリードアトーチャ駅とサラゴサデリシア駅

欧米の中央駅の駅舎はプラットフォーム空間全体を覆う大架構屋根が印象的です。

大空間の例として、アムステルダム中央駅のアーチ屋根(下の写真)。アムステルダム中央駅は東京駅と姉妹駅になっていますが、プラットフォームの屋根は全く違います。
この駅のアーチ屋根は、2つの大きなアーチと中間に小さな屋根で構成されています。1889年に駅本屋側、1922年に北側、1996年に2つの屋根をつなぐ小さいアーチの順で建設されたそうです。

大きいアーチのスパンは45mで、写真は小さいスパンの北側ホーム。
プラットフォーム上に空間を作る方法として、ホームに柱を立てるのがまず考えられる方法。

下の写真はマドリードアトーチャ駅(Madrid Atocha)。設計はホセ・ラファエル・モネーオ。プリツカー賞も受賞したスペインの建築家。
アトーチャ駅は拡張を繰り返し、いくつかの駅舎の集合体になっており、これはサラゴサ万博に合わせて作られた新駅。サラゴサ・バルセロナ方面はこのホームです。

プラットホームの屋根は柱の上に正方形のプレート構造を付け、その間を開口としたもの。
屋根が人が予想する高さを超えて高いこと、柱の間隔が広くとられ、それが正方形となっており、柱がホーム上に直線状になっていることが意識されないため、柱で空間が仕切られている印象があまり感じられません。
不思議な浮遊感があります。

高い柱というのは橋でもそうですが有無を言わさず”七難隠す”ですね。短足で広幅員の橋はどうやっても格好つきません。
これでも圧倒されるが、アトーチャ駅から移動したサラゴサ駅(Zaragoza Delicias)はさらに広い。
どうやってこの大空間を成り立たせたか、元万博会場へ向かう途中から振り返って構造がわかりました。屋根が9本のタイドアーチで支えられています。
駅舎の幅が110m、駅の敷地の都合なのかアーチが軸方向に45度で取り付けられているので、アーチ支間は154m。アーチリブ、タイビームは1.2mx1.0m。

これは橋です。
構造として面白いのは、このアーチのタイビームの鋼箱断面にプレストレスを入れていること。構造デザインのレポートのリンクを貼ります。
日本でも鋼構造にプレストレスの導入を提案されている先生はいらっしゃいますが、実際に新設橋で導入された橋梁は日本にはないと思います。
最近、B活荷重対応などで鋼構造でも補強工事には使われるようになっています。

日常点検できないところにPCケーブルがあるというのは、構造物の長期的な安全性からするとあまりいい状況ではないですが、広い箱内空間で点検ができるならありだと思います。
設計はスペインのカルロス・フェラテール。
駅内部のコンクリートの壁も高い。角の柱を立てたくなるところに空間があいてます。

人間とのサイズの違いからか、同じ大空間でも空港の大屋根はどれだけ大がかりでも、鉄道ほどの印象が残らない気がします。
鉄道駅のサイズはちょうど人間が現実感を喪失しない上限のサイズなのでしょうか。この辺も興味深いところです。


2016年9月25日日曜日

ドバイ・アブダビ テーマパークか街か

ドバイ・アブダビ テーマパークか街か

ドバイ、アブダビで見た変わった形状の構造物を並べます。
アブダビ アルダーHQ。テンションディスク?点検車は側面を一周する。
23階建て フロアが見える
パイプアーチ。浅いケーブルは効いていないかも
アブダビではフォトショップで描いたような3次元型形状、型枠が特別に見えない
アルバハールタワー29階建て
ファサードのパネルが日射により開閉し省エネになるらしい
ザイード国立博物館(201608工事中)。フランクOゲーリーのグッケンハイムアブダビ、安藤忠雄の海洋博物館などは見えず。遅れているようです。
ルーブルアブダビ(201608工事中)
キャピタルゲートビル160m
ヤスマリーナサーキットとフェラーリパーク
ザイードスポーツシティ
ドバイタワー150m(工事中)
パームジュメイラ外周より内側のリーフ
ドバイ 8車線
ブルジュハリファよりインターチェンジ。
世界一の超高層ビル、ブルジュハリファの構造は、ファズラー・カーンが設計したシアーズタワーで技術的に完成したバンドルチューブ構造。
ファズラー・カーンも所属したアメリカのSOMが設計を担当。

上から見ると3方向に花びらが開いたような形状で中央のコアを支えているのを、Y字バットレスコアと呼んでいるが、バンドルチューブの組みかたが変わっただけで、超高層ビルの基本構造はシアーズタワーや、その前のハンコックセンターで開拓された技術から大きな進化があるわけではありません。
構造的な課題よりも、砂漠の中でのコンクリートの材料管理、超高層への圧送技術、人工都市での巨大プロジェクトのマネジメントに驚かされます。
ガソリン50円/L 英語ができるフィリピン人他、働くのはほとんどアジア系
シェイクザイードモスク 中央ドームは直径32.8m、8角で支持 空と白い建物のコントラスト、壁のモチーフが美しい。世界最大のペルシャ絨毯と、世界最大のシャンデリアを持つ、洗練されたセンスの現代最高峰のモスク。
どちらの都市も外の暑さが尋常ではないので、移動はレンタカーがいいと思います。

2016年9月24日土曜日

シェイク・ザイード橋

シェイク・ザイード橋 (Sheikh Zayed Bridge, Lc=140m, 2010)



アブダビのシェイクザイードモスクの裏手にあるシェイクザイード橋。ザハ・ハディッドのデザイン。

ザハ氏のイラク出身という起源によるものなのか、デザインがカリグラフィーのようで、アラブの雰囲気に非常になじんでいます。
経済性や構造デザインとしては割り切った構造と思いますが、ドバイとアブダビのフォトショップで思いつきを形にしたようなビル群に悪酔いした後にこの橋を見てホッとしました。
通常は、どちらかというとザハのデザインは現実感がなく景観から浮いていると見られることが多いですがここでは逆です。ボリュームも造形もやっぱザハすげー。好きです。構造云々ではなく、好みなので仕方ありません。

橋梁としては、メインスパン以外は支点間隔が短く、吊られている1径間以外は50m程度の連続桁橋。
支持地盤が良いとは思えない場所なので、主径間のアーチの水平力をとるための構造が必要です。左岸のアーチリブの跳ね上がりは側径間の桁の重量で水平力をとるバランスアーチとして働いているように見えます。また上の写真でアーチ支間が短くなるごとに大きなコンクリートブロックで水平力を取っているのかもしれません。
道路をアブダビ郊外側から走ると、小中大の順で山が眺められるので、こちらから見るのが正面のようです。
これだけの彫刻を残せれば幸せだろうと思います。潔く豪快な彫刻でした。

アブダビは日中は常に40度を超える猛暑なので、少し遠い所に行くならば車移動が基本。
主要道路のわきには、植樹帯が設けられていました。砂塵からの道路の保護のためという管理上の目的もあると思われます。
この植樹帯の維持のために、散水パイプが延々と施設されており、砂漠の発展の過酷さが伺えます。このような散水パイプや、電力の配給がなくなれば、この都市の大部分はあっという間に荒廃してしまうのでしょう。

空調されたショッピングモールに入れば、東南アジアの都市ともかわらないジェネリックシティの一つですが、どこよりも確信犯的な開発が求められる地域です。

月面移住の予行演習をしているような都市、というのが私の短い滞在の印象です。


なお、シェイクザイード橋付近の道路は駐停車・撮影禁止。監視カメラあり。近くの清掃車の停車場らしきところに車を止めて歩いたけど駐車が気になります。
橋梁はE10の高速道路上。歩道はありません。
ザハらしい曲線のインパクトがあるのはアブダビ空港側の桁下空間です。

マーストリヒトの歩道橋

マーストリヒトの歩道橋 (Passerelle Céramique Lc=164m, 2003)

マーストリヒトのライズが浅めのアーチ歩道橋。設計はルネ・グレイシュ。
ニールセンタイプの斜材の間隔の広さ、アーチライズが絶妙です。また、アーチリブやケーブルの頭上注意のためのポールなど、付属物に至るまで細かな配慮がなされています。

配慮にあざとさが感じられないのが大変気持ちいいです。
アーチリブは溶接継ぎ手ですが、このボルト風の飾りはダッチジョーク?でしょうか。よじ登り防止にはならないし。スケボー防止? →後日、日本のアーチでもよじ登り防止に付けられていることが分かりました。無粋ですね。

橋はマーストリヒトの駅から走って5分。マーストリヒト駅からカラトラバの駅舎で有名なリエージュ駅へは列車で30分。

ちなみに見に行った日は、夜の8時から市街の中心道路N278が橋も含めて通行止めになり、ナビも地図もなく、慣れないレンタカーで一方通行の中かなり迷いました。
ベルギーの高速道路もモンス、シャルルロア周辺が日中に閉鎖されました。そのせいで写真は夜です。

日本だと集中工事は土日を避け、夜間に実施されますが、考え方がちがうのでしょうか、車の移動は余裕を持たなければいけないことを学びましたが、計画を立てていると、あそこも、ここもと寄りたくなるのでそれは私には無理です。。