Little Island NY 2021
ランドスケーブデザインはMNLA、アーキテクトはHeatherwick Studio。構造設計はArup。ハドソン川の54番-56番埠頭跡の木杭の間に設けられた上に浮かぶ東京ドーム2個分の公共公園。
海上に浮かぶリトルアイランド。小さいようで東京ドーム2個分。魚の生息地を保護するため太陽光が人工地盤下まで届くよう柱の高さは南西端が高い。写真は北東端。
ハドソン川の埠頭は埠頭毎に整備の進捗はまちまちだが、ハドソンリバーパーク法により整備される。歩道はきれいでランナー天国。
リトルアイランドの54-56番埠頭から、ハイラインを通って3.5kmアップタウンに向かうと86番埠頭にインプレピッド海上航空博物館がある。
52番埠頭
ハイラインの入り口付近に位置し、ハイライン同様に植栽の多様さと、そのパズルに気が遠くなりそうな絶妙な配置に驚かされたので、同じガーデンデザイナーかと思いましたが、異なるガーデンデザイナーでした。ランドスケーブデザインのMNLAは、33名のデザイナーの3/4が女性で、ニューヨークを中心に活動する設計事務所のようです。
35 種の樹木、65 種の低木、290 種のイネ科植物、多年生植物、蔓植物、球根植物があり、その多くは香りと鳥や花粉媒介者を引き付ける魅力で選抜されたそうです。

外周や景色の区切りにやや高めの樹木
上手に植物を切り替えたりはみ出させたりで打ちっぱなしのコンクリートの区切りが醜く見えない
鋼管矢板やさび色の棒鋼は埠頭という場所柄に違和感がない。ポットによる土木のアレンジは比較的一様なようだが、植栽が全て異なる。庭がなだらかに変化していく感覚で、マンション入り口のような人口的な印象や、植物園のようなあざとさは感じない。
時間がたって勝手に繁殖して領域を侵していく植物を活かすのか元通りを維持するのか、そこのさじ加減は、植物園並の植物の管理があって成り立っているのだろう。
人工地盤人工地盤として植物のための土壌を作り上げるポットは、132 個のプレキャスト コンクリートで構成されている。ポットの形状は、39 種類の異なる型枠形状が使用されている。
複雑な形状のパーツはARUPがDegital Fabricationと呼ぶ3次元モデルを用いた、材料の最適化、3Dプリンターや3D型枠と連携したモデル作成技術により、複雑な形状を39種類の型枠に落とし込んでいる。BIMを活用の好例で、2Dでは困難な形状を再現するだけではなく、型枠をパターン化したり、無駄な断面で材料が過剰にならないように形状を見直すことで、経済的になることが売りになっています。
Arupのページでは、Little Islandの工事の動画があり、構造が理解できて面白いです。BIMなしには成り立たない設計であることがよくわかります。
https://www.arup.com/services/digital-fabrication/
各ポットは水面下 60mの岩に打ち込まれた杭により支えられている。マンハッタン島は5億年前の変成岩(花崗岩、片麻岩、ドロマイト系岩石、片岩:マンハッタン片岩)の岩盤上にあるので、支持層が60mもあるのか?と思って調べてみると、ハドソン川は氷河期のフィヨルドに浸水したもので、両岸の地盤の良さとは異なり堆積前の地形が深く、支持地盤が深いらしい。ハドソン川の上流にあるジョージワシントン橋は両岸に岩が露出していたが、主塔基礎は、計画時が24m、工事では水面から58mとの記載があった。
資金は、バリー・ディラー氏という、ハリウッドの映画会社などの最高経営責任者(CEO)などを歴任してきた富豪のファミリー財団が開発資金2.6億ドル+1.2億ドルの維持費を提供したそうです。さすがニューヨーク。
ポットの形状は工事中の画像を見ると、すり鉢で架設し、上面に場所打ちのスラブで平面にされる。すり鉢の中は空洞で土は入っていない。排水は上面を流れるため、全体の中央の標高が低いところで排水されているのだろう。
防水。よい仕事。
スラブの損傷があって浸水したか。上の土をすべて取り除かないと補修できない。水は構造物には残酷。
地形の作り方が巧みで、上り坂は意外と急に作られていて、マンハッタンにはない山登りの感覚が楽しい。
ハイラインもそうだが、花が咲く場所をちりばめるのも部屋の鑑賞植物の配置のように完璧で、見る側が気がつこうと思わなくても自然に美しい景色に囲まれさせてくれる。大富豪のおかげだが、これがオープン(無料)なところが素直に物を感じることができる理由のひとつかもしれない。
山の上からWTC
これを自分の家でやってみたい衝動にはかられるが、60kgくらいの庭石一個を10cmずらすのも難儀するし、植栽を計画してこの1/100が作れたとしても、2,3年の繁殖と雑草で見るも無惨な状態になるのは田舎暮らしでは常識。家の庭の畑がちょうど6mのポット1個だが、一年草の野菜で毎年リセットできる条件でも、一年通して許せる見た目で維持するのはかなり難しい。
庭いじりはお金よりも、永続的な根気を要する趣味です。
参考:MNLAのプロジェクト紹介
https://mnlandscape.com/projects/Pier_55
参考:日経アーキテクチャの記事、プレキャストの構成図がわかりやすい
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/database/blddb/00392/